あの日以来秋玖君を学校で見なくなった。
雲雀さんは時たま見かけるけど。
秋玖君の事をリボーン自身でも探っているみたいだけど、結局雲雀さんの双子のお兄さんであるって事以外の情報は得られなかったらしい。
雲雀という姓ではなく、瑳神という姓をどうして使っていたのかとか、どうして偽りの姓に瑳神を使っていたのかという事は一切不明のまま。
学校で出会えないならば学外ではどうだろうと街に出た時とか探してみるけど、一度も出会った事がない。
そもそも秋玖君とは学校以外の場所で出会った事がない。
放課後や休日に一緒に遊ぶといった事をした事がないから、秋玖君が行きそうな場所も学校以外では分からない。
それは俺だけではなくって、獄寺君や山本も同じらしくって、見ないという。
リボーン曰く雲雀さんちでも秋玖君を見かけないらしい。
雲雀さんちとは言っていたけど、中に入って確認した訳ではないみたいだけど。
秋玖君に会いたい。
普段クールで表情の変化があまり無いけど、本当は優しくて笑うとすごく嬉しくなるし、カッコイイと思う。
どうすればまた会えるんだろう。
……あぁ、そうか。雲雀さんに直接聞けばいいんだ。
綱吉が悩んでいた事に答えを導き出した。
そして次の瞬間には走り出していた。
今、最も秋玖にまた会える可能性を秘めている恭弥を探す為に。
まだ学校が終わる時間ではないから学内に居ると思い、学校内を隅から隅へと。
だが、なかなか見つからない。
焦りにも似た感情を抱き、進む足が己のもう片方の足に絡んだ。
あっと思った時にはすでに扱けてしまっており、顔面から廊下にダイブしてしまった。
「ってて……」
顔面を強打した痛みか、それとも別の理由からか綱吉の目に涙が浮かぶ。
「10代目!!」
「ツナ!!」
教室に居たはずの綱吉の姿が無く、とりあえず待っていたものの、待てども戻って来なかった為探しに来た獄寺と山本。
二人の声に顔を上げれば、心配そうな顔をして駆けてくる。
そんな二人が綱吉のところまで駆けより、綱吉を支え立ち上がらせた。
「ねぇ、僕の前で群れないでくれる」
静かにかかった声と、殺気。そしてチカッといった小さな音。
その声に振り返れば、綱吉が探していた人物で。
「雲雀さん! お願いです、秋玖君が今どこに居るのか教えてください!!」
支えてくれていた二人の手を離し、恭弥に問う綱吉。
「軽々しくその名を呼ばないでくれる」
問いかけてきた綱吉をトンファーで瞬時に壁へと縫いつける。
「なっ!」
「10代目!! 雲雀テメェ、10代目を離せ!」
だが、恭弥は綱吉を離す事はせず、さらに首もとにトンファーを当てる。
「きょーちゃん」
足音も無く静かな声で新たな人物がその場に入ってくる。
その声に反応した様にその場に居た者達が視線を向ける。
「兄さん……」
だが、反応したのはトンファーを綱吉の首に当てたままの恭弥のみで。他の三人は現れた人物を見て固まっていた。
「戻らないと思えば……。きょーちゃん、私との約束を覚えているかい」
問いかける声に小さく頷きトンファーを綱吉の首から離し、その者へと近寄る。
そんな恭弥の頭を撫で
「書類整理は終えたから確認したら帰ろう」
と告げた後、恭弥の手を取り繋ぐと踵を返して元来た道へと歩み出す。
その背に慌てて声をかけたのは綱吉であった。
「待って!」
綱吉の声に歩みを止めて首だけで振り返り視線を向ける。
その視線にたじろぎながらも声を振り絞り口を開いた。
「秋玖く……「軽々しく呼ぶなってさっき言ったばかりだよね」
だが、すぐに恭弥が綱吉の言葉に覆い被さるように言う。
そんな恭弥を手だけで諌め
「よく気がついたね、綱吉」
きちんと振り返り感心した様に告げる。
「なっ! 10代目! 雲雀にそっくりなコイツが瑳神なんですか!?」
「冗談だろ……」
信じられないといった二人。それもその筈で恭弥と手を繋いでいる人物は恭弥と瓜二つであり、声も彼らが知る瑳神 秋玖ではなく雲雀 恭弥に近い。
そんな人物がまさか自分達が探している人物であるとは思いもしない訳で。
「秋玖君、あの時雲雀さんを弟だって言っていたし、雲雀さんも秋玖君の事を兄さんって……」
だから……。と答えた綱吉。
「そっか。……付いておいで」
人の目や耳がどこにあるか分からない廊下で話すには向かない話題だと判断したのかその様に告げて、返事も聞かずにまた踵を返して歩み始めた秋玖。
手を繋いでいる恭弥も歩み始める。
その背を見、決心した様子で頷き
「二人とも行こう」
そう声をかけて進み始める綱吉であった。
秋玖が歩みを止めたのは応接室のソファーの前であった。
「きょーちゃんは書類の最終確認。三人はそこにかけな」
恭弥に予め口も手も出すなと声には出さずに告げ、綱吉達には自分と対面側のソファーを勧めるとドアをきちんと締め切り、ソファーに戻り座る。
「何が聞きたい」
質問に答えるから話しな。と秋玖が促す。
「……」
だが、誰一人とて口を開かない。恭弥が紙を捲る音のみが響く応接室。
ため息一つ吐いて
「姿を眩ませたのは私の事を知った綱吉を恐がらせない為。この姿に関しては病み上がりなのに無理をする弟をサポートする為だ」
聞きたい事であろう点を説明する。
他に質問は。と対面している三人の反応を待つが、反応はない。
それならばもう語る事もないだろうと判断し
「草壁」
一言呼べばドアを開けて風紀委員副委員長である男が入ってくる。
その彼に視線を一度向け、三人に戻すと
「来訪者がお帰りだ」
そう述べ、応接室から連れ出せと暗に延べれば、頷く事で返事をして秋玖の前に座っている三人を立たせて外へと追いやろうとする。
草壁に押されつつも何とか振り返り
「秋玖君! また教室で会えるかな!?」
綱吉の問いかけに考えた様子を見せた後
「綱吉が怖がらないで今までのように友達であるというならば、そのうち」
静かにそれだけ答え、それ以上は話しはないと立ち上がると三人には背を向け、イライラしながらも秋玖に言われた通り書類の最終確認をしていた恭弥に歩み寄り、進行状況を確認するのであった。
草壁により廊下に出された三人。
ピシャリと閉じた応接室のドア。そのドアの前には門番のように草壁が仁王立ちしている。その為、無理に入る事は出来ない。
後ろ髪を引かれる思いではあったが、会えないのであればそこに留まるのは無意味であるし、嫌われたくないと思うから、綱吉は獄寺と山本を引き連れ教室へと戻るのであった。
「……」
「10代目、大丈夫ですよ。10代目が今まで通りならばまた会えるって瑳神の奴も言っていましたし」
「まぁ、秋玖自身が変わる訳じゃないから、怖がる必要はないよな」
何も口にしない綱吉を気遣って獄寺と山本が励ますように言葉を紡ぐ。二人の言葉に小さく頷き
「うん、びっくりはしたけど秋玖君、全然変わってなかった。雲雀さんは怖いけど、秋玖君は怖くない」
そう返し、早くまた教室で会えるといいな。と口にする。
そんな綱吉に二人も頷き返すのであった。
最近のコメント