復活10

 こんにちは、皆さん。
 桜花さん改め秋玖君です。
 旅に出よう計画は何とか、一応、成功? したんです。
 なんでそんな自信なさげな疑問形かと申しますと、旅と呼べるほどの事が出来なかったのです。
 いや、うん、一応並盛からは出れたんですよ。
 いったん家帰って着替えてから通帳とキャッシュカードと財布とを鞄に詰めて、銀行寄ってから駅で青春18切符買って乗れる電車に乗った訳ですよ。
 今思えば新幹線にしとけば良かった……。
 まぁ、とにかく、電車の揺れに揺られながらうとうとして、ふと目覚めたところで空腹感を感じたのでホームにあるうどん屋さんでうどんとおいなりさんを食し、電車を確認してから乗り、終点で乗り換え、また揺られ、どんどん下って行ったのですが、都心から離れて行くと電車の本数も限られてきまして……。
 また、中学生が遅い時間一人ってのも悪る目立ちしますからある程度行ったところで下車して宿泊先を探す事にし、それと共に駅の売店で時刻表を購入しました。
 うん、ここまではスムーズでした。
 が、宿泊先を決めた辺りから……。
 中学生が一人でってのと軽装だったので、勢いに任せて家出でもしたのではないかと大変疑われまして。
 いや、うん、遠からずその予想は当たっているんですが、そんな事言える訳がありません。
 なので翌日が土曜日で休みだから週末を使ってちょっと遠出をしているんです。って言ってなんとか宿泊先を確保したのですが、身元確認の為に住所やら名前やら電話番号を宿泊名簿に記載したところ、私の知らないところで電話連絡されたみたいで……。
 翌朝目を覚ましたらすぐ近くに恭弥さんが居ました。
 ………………。
 あぁ、死亡フラグですか。
 そう思ったものの、現実逃避したくて布団を被って二度寝を試みました。
 結果布団を剥がされ、ご機嫌斜めだと分かる雰囲気の恭弥さんに再度ご対面するはめに。
 寝起きと言う状況を利用して強がってみよう。と起きたばかりの頭で思い立った私は、現実逃避したい気持ちも混じってか怖いもの知らずにも恭弥さんに噛み付きました。

「なに」
 たった一言問う言葉を紡いだ秋玖
 普段よりも機嫌が悪い事が伺える問いかけ。
「……」
 何も答えない恭弥に対し答えないなら相手をする必要なし。とでも言うかの様に起き上がり顔を洗う為にタオルを取り共同の洗面台がある廊下へと向かおうとする。
 だが、サンダルを履こうとしたところで恭弥に手を取られ、歩みを阻止された。
 顔だけ振り返って
「なに」
 再度同じ言葉を紡ぐ。
「っ……!」
 グイッと秋玖の手を強く引き体制を崩させ、恭弥は己の腕に秋玖を抱く。
 そして逃がさないとでも言うかの様に強く抱きしめて小さく何か呟いた。
「……」
 そんな恭弥にため息を吐く秋玖
「約束を破られるのは好きでない。それは知ってるはずだ」
 恭弥により抱きしめられている為、くぐもった秋玖の声が室内に響く。
 その声に反応するように抱きしめる腕に力が入る。
「……守れないなら約束などするな」
 苦しいのか力を緩めるように促しながら秋玖は言葉を続ける。
「私は約束を破られる度にまたか。と思い、それが続けばそんな相手との約束など信じなくなり、仕舞いには相手自身を信じない」
 一番長く一緒の時間を過ごしている、血の繋がった弟を信じなくなるのは避けたい。と告げる。
 その言葉に緩められていた腕の力がまた強くなる。
 そしてまた何か呟いたらしく、秋玖は恭弥の背に片方の手を回し、ポンポンとあやすように撫でたのであった。
秋玖兄さん、帰ろう」
 どうやら秋玖は今回の事を許してくれたらしい。と判断したらしく、恭弥が今までとは異なり普段と同じ声量で話しかける。
 そんな恭弥に本日何度目かの小さくため息を吐くと
「顔を洗ってくる。身支度と会計を済ませて別のところで朝食にしよう」
 何でここまで来たかは知らないが、帰る前に朝食を済ませたいと秋玖は思うのであった。