奪っちゃった。
兄さんの唇、やっぱり柔らかかった。
……っ!
やっぱり兄さんの事が好き。
兄さん、口数が少ないけど、僕が欲しい言葉はちゃんとくれる。
でも言葉だけで、それ以上の事はしてくれないし、時たますごい意地悪。
絶対僕の気持ちを知っていて焦らしているんだ。
今日だって兄さんは僕に自分を探させておいて、抱きついたら「どうした?」って顔して僕を優しく呼ぶし。
兄さんを探すのは嫌いじゃないけど、やっぱり片時も離れずにずっと一緒に居たいから、焦らされているみたいでいや。
そりゃ、兄さん、見つけて抱きついたら呼んでくれて、嬉しくて兄さんを見上げたら、ご褒美って感じで頬に優しく触れて最高級の笑みを見せてくれて、僕の事「綺麗」って言ってくれたけど。
照れ隠しで拗ねた風に「逃げたでしょう」って言ったら悪戯がばれたかって風に苦笑いして、触れていた手も離そうとするから、思わず掴んだ。
そしたら「噛み殺す?」って妖しい笑み付きで聞いてくるし。
反則。そんな笑み付きで聞かれたら出来る訳ないじゃん。
そもそも、僕より強い兄さんを噛み殺せる訳がないし。
分かっていて聞いてくる兄さんはずるい。
だから、聞き返してもいいよね? という軽い気持ちで聞き返したんだ。
軽率だった。
兄さんは優しいけど、本当は凄く気高い存在なんだから、僕なんかが質問に対して悪戯に質問の返答以外を返して良い訳がないんだ。
僕との言葉遊びに興味が失せたって感じで無表情で「痛いのは嫌い」って返されて、息がつまった。
ごめんなさい! 兄さん、兄さんを噛み殺せる訳が無いって分かっていて、兄さんにかまって欲しくてふざけたんだ。お願いだから嫌いにならないで!
兄さんに嫌われるぐらいなら僕、なんだってするから!
そんな思いで必死になって兄さんを見上げてたら、ため息吐かれたけど「嫌いじゃない」って言ってくれて、「好きだ」っても言ってくれた。
嬉しい。
どうしよう、兄さんに好きって言ってもらえた!
あっ……僕も言うの?
兄さんが僕は言わないのかって見てる……。
「僕も秋玖兄さんが大好き! 好きなんだから……」
っ……!
恥ずかしいけど言ったよ! 何で聞こえなかったって顔して意地悪するの?
ちゃんと言ったのに、兄さんの意地悪!
僕にだって意地は有るんだから!
思わず兄さんの襟首掴んで、赤い美味しそうな唇奪って、今度は聞こえなかったなんて顔させない為にしっかり兄さんの目を見て大きな声で宣言するように言った。
したら絡まった視線で兄さん、よくできましたって一瞬目で語って……。
あまりにその視線が恥ずかしくて逃げ出した。
いつも格好良いけど、あの時の兄さんはいつも以上に格好良くて、兄さんの視線に耐えきれなかった。
あのままあそこに居たら兄さん、僕の欲しい行動をしてくれたかもしれないのに!
産まれた時からずっと一緒に居るのに、兄さんの強い刺激的な視線はあの時が初めてで、耐えきれなかったんだ。
今でも思い出すと全身が熱を持って、身悶える。
こんなの知らない。
っ! 兄さん! 秋玖、兄さん!!
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2020.2
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