月: 2020年2月

復活18

 お買いもの~お買いもの~。
 やぁやぁ、こんにちは皆さん。桜花さん改め秋玖君ですよ。
 本日は街の方まで出て来ました。それも一人で!
 本屋さんで沢山本を漁るんです。そのあとはケーキでも食べてゆっくりお茶を楽しみつつ、日頃の疲れを癒そうかと。
 久々に行くから買うものいっぱいだぞー! 楽しみすぎる!!

 目的の本屋へと着いた秋玖はカートを他者の邪魔にならない様にしながら引き、嬉々としてまずは新刊の棚を漁る。
 あれもこれもと手にしていき、その場所だけで片手で持つには少々重い量になってしまう。
 どうしたものかと思いつつ、買うのをやめるといった選択肢は彼には無いらしく、カートをまた引きながら次の棚へと移動を始めた。
 そんな彼を見かねたのか店員が店内にあまり置いてない買い物カゴを貸し出してくれた。
 それに礼を告げて、受け取ると持っていた本を入れカートの上に乗せて新たな本を見つけては入れていく。
 みるみる間にカゴいっぱいになり、そこでようやく秋玖は動作を止め、レジを確認してから暇そうなところへと並ぶ。
 カートに本を入れてくれるように頼み、計算が終わるのを待ってから清算を済ませて本屋を後にするのであった。
 本屋から出て重くなったカートを引きお茶をする為に喫茶店へと向かおうと歩いていたところ、聞き覚えのある声が話しかけてきた。
「お? 秋玖
 その声に歩みを止めて振り返れば、ゲームセンターを背に山本が立っているではないか。
「……補習はどうした?」
 山本の姿は制服であるし、時間的にまだ終わる時間ではない。
 知り合いに会いたくないから、早い時間に出て来たのに、これでは意味がないと思う秋玖
「今日は日曜だからな。息抜きも必要ってね」
 ニカッと笑う山本にため息を吐く。
 そんな秋玖の空いた手を取り、当たり前のように
秋玖も一緒に遊ぼうぜ。秋玖だけ連絡取れなくて諦めかけてたんだ」
 ニコニコとしながら、返事も待たずにグイグイと引っ張っていく。
「私はいい。ゲーセンは苦手だ」
 と断りを入れる。
「山本何やって……瑳神じゃねえか」
 一向に来ない山本を呼びに来た獄寺。
 目に映ったのは山本に引っ張られている私服の秋玖の姿。
「山本をどうにかしてくれ。私は帰らなければいけないんだ」
 獄寺にヘルプを出す秋玖
「嫌がってるじゃねえかよ!」
 無理やり誘ってんじゃねえ! といった様子で山本と秋玖の間に入ろうとしたところ、大きな爆発音と綱吉の悲鳴がする。
 サッと表情を変え、獄寺と山本は綱吉のもとへと走っていく。
(ちょ! 待ってよ!! 今日がもしかしてリング戦のきっかけ日だったの!? ギャー! マジ勘弁してよ! 無理無理!! 知っていたら家に籠っていたのに!)
 内心焦りまくりであるが、片方の手は山本に強く握られ、もう片方は大切な本が入ったカートをしっかり握っている秋玖は、山本に引きずられる様な体制で綱吉のもとへと向かうのであった。
 飛んできて自分を潰した相手に起こされている綱吉のもとに近づくと、また新たな爆発音。
 そして新たな人物の声。
 その人物の声を聴いた瞬間、秋玖は山本の手を振りほどき、そしてちびっ子達を空いた片腕で抱きかかえてその場から立ち去ろうとする。
 もちろん大切な本が入ったカートは手放さない。
「待て。チビ達は避難する奴に任せて秋玖は残るんだぞ」
 リボーンに引き止められるが、視線だけ向け
「何を言ってる(んですか!? 弱小の)私を巻き込むな(って言いはりますよ! 無理だから、本当に)」
 と一言告げるとそのまま歩みだす。が、ガラガラと音がするカートに舌打ちして、取っ手を引っ込めると抱えて歩く事にする。
(か、買いすぎた。重い……でも、大切な癒しの品だから手放すなんてしないぞ。頑張れ、私。ってか、雲雀家の能力)
 力を籠めて一歩一歩を歩くのであった。
 そんな秋玖
「あ、あの瑳神君! ランボ君とイーピンちゃんは私達で連れて行くから」
 控えめに京子がかける。
 その声に振り返れば、京子とハルが立っており、秋玖は抱えていた子ども達を二人に預けると、両手でカートを持ち直し
「笹川さん達も早く避難した方がいい。ここは危険だから」
 と告げて、秋玖はその場から去る為に止めていた足を再度動かし始めるのであった。

復活17

 こんばんは、皆さん。
 桜花さん改め秋玖君です。
 あーと、うん、今夜も絶賛抱き枕な状態になるみたいです。
 え? なんでそんな事わかるかって?
 そりゃ、現在なりつつあるからです。えぇ、普段ならば寝ている間になっているのが、今日は起きている間になっているって違いですね。

「きょーちゃん、自分の部屋で寝な」
 秋玖の部屋に一緒に入ってきてあまつさえ彼のベッドに彼よりも先に入ろうとしている恭弥に秋玖は淡々と告げる。
 だが、恭弥は首を横に振り
「やだ」
 と一言返して、掛布団を鼻の所まで被り、秋玖の様子を伺う。
「嫌って、どうして」
 今日に限って初めから入ってくる理由が分からず問う。
「……だって、兄さんは明日からもう応接室に来ないんでしょ」
 今日綱吉達に学校で出会い、教室に行くと言っていた秋玖
 せっかく一緒の時間を過ごせていたのに邪魔が入ってしまい、尚且つその一緒の時間の終わりを告げたのだ。
 これは恭弥としては大変面白くない。
 だが、教室に行って草食動物と会うのは中学生活を始めた頃から秋玖の小さな願いである事も知っているから、恭弥としては行かないで欲しいと我儘を言えない。
 言えない分を違うところで補うように甘える。
「……今日の話か。もしそうならば、明日からという訳ではない」
 そんな恭弥の言動から導き出した答え。その答えに苦笑を漏らし、自分の部屋に戻れと言っても先程と同じ返答であろうから諦めて秋玖もベッドに入る。
 そして延長紐を引っ張り電気を消す。
 いつもよりも早く部屋に引っ込んだのは、まさかの綱吉達との再会に思いの外気疲れしてしまった為、眠かったからだ。
 なのに恭弥が付いてきたのですぐには眠れなかったのだ。
 だが、話しを聞き、単なる甘えだと分かったし、自分の部屋に戻れと言っても無意味であると理解したから、眠たいのを我慢するのも無意味であると。
「私は言ったはず。きょーちゃんの怪我が完治するまではって。まだ、あの時に追った怪我は治っていないだろ」
 あまり無理はしないように。と口にしつつ、小さな欠伸が出る。
「……戻りなって言っても聞かないだろうから、今日はもう言わない。おやすみ」
 おやすみの挨拶を告げると、恭弥と自分に掛けている掛布団がきちんと肩まで掛かっているかを確認して秋玖は目を閉じ、夢の世界へと旅立つのであった。
 一方的に話を終わらせられた恭弥。
「兄さん、完治しても一緒に居てってお願いしたら、叶えてくれる?」
 秋玖の寝顔を覗き込みながら問うが、返事はない。
 すでに話し相手は夢の中。
 よっぽど疲れているのか何を言っても返事は返ってこず、代わりに聞こえるのは寝息のみ。
「……大好きな兄さん、おやすみなさい」
 触れるだけのキスをして、恭弥は秋玖を抱きしめて眠りにつくのであった。

復活16

 あの日以来秋玖君を学校で見なくなった。
 雲雀さんは時たま見かけるけど。
 秋玖君の事をリボーン自身でも探っているみたいだけど、結局雲雀さんの双子のお兄さんであるって事以外の情報は得られなかったらしい。
 雲雀という姓ではなく、瑳神という姓をどうして使っていたのかとか、どうして偽りの姓に瑳神を使っていたのかという事は一切不明のまま。
 学校で出会えないならば学外ではどうだろうと街に出た時とか探してみるけど、一度も出会った事がない。
 そもそも秋玖君とは学校以外の場所で出会った事がない。
 放課後や休日に一緒に遊ぶといった事をした事がないから、秋玖君が行きそうな場所も学校以外では分からない。
 それは俺だけではなくって、獄寺君や山本も同じらしくって、見ないという。
 リボーン曰く雲雀さんちでも秋玖君を見かけないらしい。
 雲雀さんちとは言っていたけど、中に入って確認した訳ではないみたいだけど。
 秋玖君に会いたい。
 普段クールで表情の変化があまり無いけど、本当は優しくて笑うとすごく嬉しくなるし、カッコイイと思う。
 どうすればまた会えるんだろう。
 ……あぁ、そうか。雲雀さんに直接聞けばいいんだ。

 綱吉が悩んでいた事に答えを導き出した。
 そして次の瞬間には走り出していた。
 今、最も秋玖にまた会える可能性を秘めている恭弥を探す為に。
 まだ学校が終わる時間ではないから学内に居ると思い、学校内を隅から隅へと。
 だが、なかなか見つからない。
 焦りにも似た感情を抱き、進む足が己のもう片方の足に絡んだ。
 あっと思った時にはすでに扱けてしまっており、顔面から廊下にダイブしてしまった。
「ってて……」
 顔面を強打した痛みか、それとも別の理由からか綱吉の目に涙が浮かぶ。
「10代目!!」
「ツナ!!」
 教室に居たはずの綱吉の姿が無く、とりあえず待っていたものの、待てども戻って来なかった為探しに来た獄寺と山本。
 二人の声に顔を上げれば、心配そうな顔をして駆けてくる。
 そんな二人が綱吉のところまで駆けより、綱吉を支え立ち上がらせた。
「ねぇ、僕の前で群れないでくれる」
 静かにかかった声と、殺気。そしてチカッといった小さな音。
 その声に振り返れば、綱吉が探していた人物で。
「雲雀さん! お願いです、秋玖君が今どこに居るのか教えてください!!」
 支えてくれていた二人の手を離し、恭弥に問う綱吉。
「軽々しくその名を呼ばないでくれる」
 問いかけてきた綱吉をトンファーで瞬時に壁へと縫いつける。
「なっ!」
「10代目!! 雲雀テメェ、10代目を離せ!」
 だが、恭弥は綱吉を離す事はせず、さらに首もとにトンファーを当てる。
「きょーちゃん」
 足音も無く静かな声で新たな人物がその場に入ってくる。
 その声に反応した様にその場に居た者達が視線を向ける。
「兄さん……」
 だが、反応したのはトンファーを綱吉の首に当てたままの恭弥のみで。他の三人は現れた人物を見て固まっていた。
「戻らないと思えば……。きょーちゃん、私との約束を覚えているかい」
 問いかける声に小さく頷きトンファーを綱吉の首から離し、その者へと近寄る。
 そんな恭弥の頭を撫で
「書類整理は終えたから確認したら帰ろう」
 と告げた後、恭弥の手を取り繋ぐと踵を返して元来た道へと歩み出す。
 その背に慌てて声をかけたのは綱吉であった。
「待って!」
 綱吉の声に歩みを止めて首だけで振り返り視線を向ける。
 その視線にたじろぎながらも声を振り絞り口を開いた。
秋玖く……「軽々しく呼ぶなってさっき言ったばかりだよね」
 だが、すぐに恭弥が綱吉の言葉に覆い被さるように言う。
 そんな恭弥を手だけで諌め
「よく気がついたね、綱吉」
 きちんと振り返り感心した様に告げる。
「なっ! 10代目! 雲雀にそっくりなコイツが瑳神なんですか!?」
「冗談だろ……」
 信じられないといった二人。それもその筈で恭弥と手を繋いでいる人物は恭弥と瓜二つであり、声も彼らが知る瑳神 秋玖ではなく雲雀 恭弥に近い。
 そんな人物がまさか自分達が探している人物であるとは思いもしない訳で。
秋玖君、あの時雲雀さんを弟だって言っていたし、雲雀さんも秋玖君の事を兄さんって……」
 だから……。と答えた綱吉。
「そっか。……付いておいで」
 人の目や耳がどこにあるか分からない廊下で話すには向かない話題だと判断したのかその様に告げて、返事も聞かずにまた踵を返して歩み始めた秋玖
 手を繋いでいる恭弥も歩み始める。
 その背を見、決心した様子で頷き
「二人とも行こう」
 そう声をかけて進み始める綱吉であった。

 秋玖が歩みを止めたのは応接室のソファーの前であった。
「きょーちゃんは書類の最終確認。三人はそこにかけな」
 恭弥に予め口も手も出すなと声には出さずに告げ、綱吉達には自分と対面側のソファーを勧めるとドアをきちんと締め切り、ソファーに戻り座る。
「何が聞きたい」
 質問に答えるから話しな。と秋玖が促す。
「……」
 だが、誰一人とて口を開かない。恭弥が紙を捲る音のみが響く応接室。
 ため息一つ吐いて
「姿を眩ませたのは私の事を知った綱吉を恐がらせない為。この姿に関しては病み上がりなのに無理をする弟をサポートする為だ」
 聞きたい事であろう点を説明する。
 他に質問は。と対面している三人の反応を待つが、反応はない。
 それならばもう語る事もないだろうと判断し
「草壁」
 一言呼べばドアを開けて風紀委員副委員長である男が入ってくる。
 その彼に視線を一度向け、三人に戻すと
「来訪者がお帰りだ」
 そう述べ、応接室から連れ出せと暗に延べれば、頷く事で返事をして秋玖の前に座っている三人を立たせて外へと追いやろうとする。
 草壁に押されつつも何とか振り返り
秋玖君! また教室で会えるかな!?」
 綱吉の問いかけに考えた様子を見せた後
「綱吉が怖がらないで今までのように友達であるというならば、そのうち」
 静かにそれだけ答え、それ以上は話しはないと立ち上がると三人には背を向け、イライラしながらも秋玖に言われた通り書類の最終確認をしていた恭弥に歩み寄り、進行状況を確認するのであった。
 草壁により廊下に出された三人。
 ピシャリと閉じた応接室のドア。そのドアの前には門番のように草壁が仁王立ちしている。その為、無理に入る事は出来ない。
 後ろ髪を引かれる思いではあったが、会えないのであればそこに留まるのは無意味であるし、嫌われたくないと思うから、綱吉は獄寺と山本を引き連れ教室へと戻るのであった。
「……」
「10代目、大丈夫ですよ。10代目が今まで通りならばまた会えるって瑳神の奴も言っていましたし」
「まぁ、秋玖自身が変わる訳じゃないから、怖がる必要はないよな」
 何も口にしない綱吉を気遣って獄寺と山本が励ますように言葉を紡ぐ。二人の言葉に小さく頷き
「うん、びっくりはしたけど秋玖君、全然変わってなかった。雲雀さんは怖いけど、秋玖君は怖くない」
 そう返し、早くまた教室で会えるといいな。と口にする。
 そんな綱吉に二人も頷き返すのであった。

復活15

 自分で自分の行動がよく分からない桜花さん改め秋玖君です。
 なんで私は降りてきた道をまた登っているのかしら? 本当に意味が分からない。
 門とおぼしき場所まで見えたところでそのまま進んで街の方に歩いていけば良いのに気がついたら踵を返していたっていうね。
 死亡フラグありまくりな場所に引き返しているって、本当に自分の行動とは思えない。
 とりあえずタクシーは呼んでおこう。
 戦闘が終わった頃を見計らって恭弥さん回収して病院に連れて行かないとだし。
 ……私の素性が綱吉君にばれてしまうだろうな。でも、リボーンさんに目をつけられてしまったみたいだし、隠していてもどっち道時間の問題かな。
 でも、明日以降怖がられたら寂しいな。
 そうなったら学校行きたくないな。でも義務教育期間だしなぁ。
 ……。並盛中大好きな恭弥さんだから学校を不登校になるのをよしとしないだろうから、保健室登校ならぬ応接室登校になりそうだわ。
 洒落にならない……。
 あー、でも今から取ろうとしている行動は確実に素性がばれてしまう行動な訳で……。
 腹をくくるしかないか。
 せめて戦闘終了していて復讐者の来訪が終わっているといいんだけど。
 会いたくないよ、あのおっかない集団には。
 

 骸との戦闘を繰り広げていた綱吉。
 苦戦したものの決着が着いた。
「……クフフ。貴方を手に入れ損ねてしまいました。秋玖君」
 扉の方に顔を向け、呟く様に告げた骸。
 骸の口から出た名前に驚きを隠せずに綱吉は骸が見ている扉に視線を移す。
 するとゆっくりとした動作で静かに姿を現した秋玖
「私は……」
 何か口にしようとするが、何も言わなくていいです。とでも言うかの様に骸が小さく首を横に振った後、力尽きたように気を失った。
 秋玖は小さくため息を吐き、倒れている恭弥へと近づく。
 そして気を失っている恭弥の頬を優しく撫でた後、負担をかけない様に慎重に抱き上げる。
「六道 骸。私の大切な者達に害をもたらさないならば友になれただろう。……夢でなら話し相手になろう」
 気を失った骸に視線を向け独り言のように静かに告げ、そしてここに長いするつもりは無いといった様子で入ってきた扉に歩み始める。
 だが、そんな秋玖の進路を妨害するかの様にリボーンが銃口を秋玖に向けて立ちはだかる。
「お前、何者だ」
「……綱吉の友人である秋玖だと名乗ったはずだ」
 出会った時同様の問いに同様の答えを口にする。
 そんな二人の間にヨロヨロと割って入ってきた綱吉。
秋玖君、その……雲雀さんをどうして」
 秋玖の腕の中にいる恭弥へと視線を向け、骸を見、秋玖に視線を向ける。
 その視線を受け、秋玖は綱吉同様に自分の腕の中にいる恭弥を見、そして知り合いの様に会話をしていた骸や、秋玖が入ってきてからずっと視線を向けてきている犬や千種をちらりと見て、小さく息を吐く。
「骸とは小さい頃夢で会った事がある。雲雀 恭「……んっ……に…ぃ、さん…」
 どうして恭弥だけを連れていくのかを口にしようとしたところで恭弥がうっすらと意識を取り戻し、秋玖を認識すると安心した様子で口を開く。
 そしてまた眠りにつくように意識を手放した。
 そんな恭弥を優しく見て、綱吉に視線を移し
「恭弥は私の弟だから」
 と一言告げ、気持ちを切り替える様に一度目を瞑り、これ以上はここにいるつもりは無いといった様子で歩みだし綱吉とリボーンの横を通りすぎる。
「待て。お前、ビアンキの質問に対して是と答え「質問が名前と限定されていた。だからそうだと答えたまでの事」
 リボーンの質問に覆い被さる様に答えを返し、綱吉に視線を向け
「騙す様な形になってしまってすまなかった」
 これ以上は話す事は無いと今度こそ秋玖は出ていく。
 去った秋玖の背を思い出しながら
「……秋玖君はどうして」
 と小さく呟く綱吉の問いに答える者は誰もいなかったのであった。

復活14

 やぁやぁ、こんにちは。
 桜花さん改め秋玖君だよ。
 変なテンションでごめんね。ぶっちゃけこんなテンションじゃないと絶叫しそうなんだ。
 ってか、ここどこですか。見知らぬ天井に周りの風景で超怖いんですけど。
 私は学校に向かっていたんですよ? 違ったっけ?
 いや、間違いなく学校に向かっていたわ。うん。
 朝食の時、恭弥さんが「しばらくは学校休んだら」って言っていたけど、綱吉君と前日「また明日」って挨拶交わしてたから、学校に向かっていたんですよ。
 それに教室行けばますます忠犬に磨きがかかった獄寺氏が拝めるし。
 2759派としては大変美味しいです。
 って、話が反れてしまいました。
 まぁ、そんな訳で私は学校に向かっていたんですよ。
 白昼夢にしては感覚があるし、夢遊病の確率は零に近いだろう。
 ……プチ家出をしてからの私の朝は恭弥さんの抱き枕状態ですので、夢遊病の確率はやっぱりないです。
 ならばやっぱりここどこよ?
 恭弥さんの言葉に素直に従っていた方が良かったのかしら……。
 とりあえず見知った場所を探そう。遅くなるとさらに恭弥さんの監視が強まりそうだし。
 そうなるとささやかな息抜きである一人での書店廻りも出来なくなるし。うん、頑張って帰ろう。

 起き上がり、歩み始めた秋玖
 目指したのは光り指す方。
 何となく進みだした方向であったが、進むにつれ秋玖は顔を引きつらせていた。
 それもそのはず。
 部屋から出るとさらに廃墟の如く廃れた建物の中で、このままでは危ないと建物の外へとなんとか出たのだが、外に出たら出たで森が一面に広がっていたのだ。
「うそ……」
 と口から出た小さな言葉。
 そしてまさかと思い振り返って見上げた廃墟に掲げられた建物の名称。
 勘弁してよ……。と漏れた呟き。
 ハッとした様子で自身を見渡し、そして触れて傷がない事を確認する。
秋玖君!?」
瑳神!?」
 そんな秋玖の背から彼の名を呼ぶ声がかかる。
 声に応じる様に秋玖が振り返れば、やはり綱吉と獄寺が驚いた表情で立っていた。
 そして出会ってないが、秋玖が一方的に知っているリボーンとビアンキの姿もあった。
「綱吉に獄寺。……ここはどこだろうか」
 とりあえず出会っている二人の名を呼び、そして場所を知らないふりをして尋ねる。
「どこって、知らないでこんなところにいるのかよ!」
 唖然とした様子で声を露わにする獄寺。
 その言葉に頷き
「学校へ向かっていたはずなんだが、なぜかその建物の中で気を失っていた」
 そう説明をする。
 そんな秋玖の説明に怪訝そうな様子で
「何でだろう? あ、それよりここは危ないから離れた方が良いよ」
 呟くが、ハッとした様子で告げる。
「ああ。……綱吉達は中に行くのか?」
 事実を知っているが、あえて問いかける。
「え、うん。助けなきゃい……」
「……おい、お前、何者だ」
 静かだったリボーンが綱吉の言葉にかぶさる様にして問い掛ける。
「な! 何言っているんだよ、リボーン! 秋玖君、ごめん!!」
 慌ててリボーンに声を荒げ、そして秋玖に謝る綱吉。
 だが、秋玖は気にした様子も無くリボーンの問い掛けに声の主である彼を見てから、視線を合わせる為に屈む。
「私は綱吉の友人である瑳神 秋玖
 と一言だけで告げ、君は? といった問い掛けを視線で送る。
 その視線にしばし沈黙で返すが、根負けしたかのように
「オレはツナの家庭教師だ」
 口を開くが、名前は告げない。
 そんなリボーンに気にした様子もなく
「そう」
 と返す。
「……お前、本当に何者だ」
 秋玖の態度に不信感を抱いたのか、鋭い目付きになり、尚且つ警戒する。
「さっき言った通り、綱吉の友人以外の何者でもないよ」
 しれっと返したが、内心はかなり汗だくな状態である秋玖
(何で私こんなにリボーンさんに疑われてるの!?)
 ひぃー! 神様~。と泣き言を盛大に心の中で叫んでいると、綱吉が痺れを切らしたように
「リボーン、いい加減にしろよ! 秋玖君は一般人なんだから、怪しいとか危険とかそんな事は一切無いんだから!」
 秋玖とリボーンの間に割って入る。
 綱吉の言葉に視線は秋玖に向けたまま、理由を告げる。
「一般人だって言うなら何でそんなに気配が無いんだ。視覚的に捕えてなけりゃ存在を認識出来ない一般人は居ないだろ」
 その言葉に困ったように
「気配が無いと言われてもな……」
 と告げるが、今まで黙って状況を見守っていたビアンキが口を開く。
瑳神と言ったわね。それは本当の名前?」
 どこか探るような言葉。
「何言っているんだよ、姉貴」
 ビアンキの言葉に獄寺が理解できない様子で問いかける。
 秋玖の方は内心ヒヤヒヤしている。
「そうだが。本当の名じゃなかったら何かあるのか」
 何とか絞り出した問いかけ。
「そう。リボーン、先を急ぎましょ」
 問いかけには答えずリボーンに行こうと話しかける。
 未だに納得していない様子であるが、先に進まなければいけないのも事実で、リボーンは秋玖への警戒を解く事なくビアンキに頷き、歩み始める。
 そんなリボーンにビアンキは続く。
秋玖君、リボーンとビアンキがごめん。オレ、先にいかなくちゃいけないから行くけど秋玖君は早くここから離れた方が良いから」
「……ここからあっちに歩いていけば道が見えて来るから、そのまま道なりに歩いていけ」
 心配そうに告げる綱吉と、ぶっきらぼうに告げる獄寺。
 そんな二人の言葉に頷き、秋玖はしばし迷った様子を見せるが口を開き
「……先の尖ったのには気をつけた方が良いと思う」
 とだけ告げ、踵を返すと獄寺が教えてくれた道を進み始める。
 秋玖が残した言葉に二人は首を傾げつつも、リボーン達を追う為に秋玖とは反対に向き直り、廃屋へと向かって歩み出したのであった。

復活13

 最近兄さんがウキウキしている気がする。
 そしてソワソワした感じで何かカタログみないな冊子を見てはため息を吐いて首を振る仕草を繰り返している。
 何かあるのだろうか?
 特に思い浮かばずにすでに数日過ぎて、なんだかイライラする。
 気になっていつも以上に群れを狩ってもスッキリしない。
 ねぇ、兄さん。
 今日の放課後に来た時に答えを聞いてもいいかな?

 秋玖は自身の席でカタログを広げて迷っていた。
 そんな彼に気が付き、綱吉が問い掛ける。
秋玖君、何だか迷っているみたいだけど……」
 その声に顔を上げて
「あぁ、迷っている」
 と頷き、見ていたカタログを綱吉に見せる。
 見せられたカタログに視線を向けた綱吉。
 そして綱吉の傍に居た獄寺と山本も覗き込む。
「ケーキだね」
 カタログに写された写真には沢山のクリスマスケーキが印刷されていた。
「今日が申し込み締め切りなんだが、決めかねている」
 甘すぎるのは嫌だし、かと言ってご老人向けのでは味気ないかもだし、何より弟がどう出るか分からない。
 そんな事を気にしていたら決めるに決められなくなってギリギリまで悩んでいるのだと話す秋玖
瑳神、チョコレート好きだったんじゃねぇのか」
 いつだったか強奪する勢いでくれと迫ってきたじゃねぇか。と獄寺が言えば、秋玖は素直に頷き返す。
「好きだよ。だが、このカタログのチョコレートケーキはいまいちだった」
 基本的にショートケーキ系が主力らしいカタログで見つけたチョコレートケーキはすでに制覇済みだと告げる。
 その返答に呆れた様子を見せる獄寺。
 笑って感心する山本。
「よっぽど好きなのな」
「そっか。なら、別のを探さないとね。そうだな、あ、このアイスケーキとかいうのは?」
 真剣になって相談にのる綱吉はカタログのある一ヶ所を指差して問う。
 その部分に全員で覗き込み
「さすが10代目!」
「お! 美味しそうだな」
「個別になっているのか……」
 それぞれの感想を述べていく。
 そしてしばし考えた後、秋玖は一つ頷くと
「今年はこれにしよう」
 と述べ、綱吉達に礼を述べるとカタログと携帯を持って廊下へと出て行った。
 そんな秋玖の背を見送りながら
秋玖君、弟が居るんだね……」
 ポツリと呟く。
 ウダウダと悩んでいた理由を話していたのをきちんと聞いていたらしい綱吉の言葉に二人は驚いた様子を見せ
「良く気づいたのな」
「あいつの弟ですか……どんな奴なんでしょうね」
 興味関心を見せるのであった。

復活12

 こんにちは。
 運動会や授業参観日やら色々な行事を不参加で終え日常生活をそれなりに送っている桜花さん改め秋玖君ですよ。
 運動会は例の監き……いえ、外出禁令時に行われたので参加のしようがなかったんですがね。
 参観日は面倒事が起こるのを知っていたので学校休みました。
 どうせ親忙しくて来ないし。
 で、今日は一人山に来ています。
 今年紅葉狩りをしていない! って気がつきましてもう無理かもしれないと思いながらも遅い紅葉狩りに来ました。
 が、やはり失敗でした。
 楽しいどころか寒すぎる。
 すでに秋は過ぎて冬到来って感じですか。

“どすーん!”

 ん? 今なんか大きな音がしませんでした?
 何だろう。
 結構近くでしたから早々に帰路についた方が利口な気がする。
 それとは別にここに来るのに昨夜寝る前に恭弥さんに告げて、記憶に無かったらと思って書き置き残してきたけど、逆効果で怒っていたら早々に帰らないと死亡フラグが上がっていくと思われ……。
 うん、今すぐ帰ろ。
 直ちに!
 どうか恭弥さんが荒れ狂っていませんように。
 そして変なハプニングに巻き込まれませんように!!

 急いで来た道を引き返していた秋玖
 だが、不意に足先が木の根に引っ掛かり転けかける。
 転げないように踏ん張ってみようとするが、片足だけでは上手くいかず、それに加え山を降りている時であったがゆえ、ケンケンをするような状態で横道にずれていき、最終的にバランスを崩して横に倒れた秋玖
 なんとか受け身はとったが、倒れた時の衝撃があり、肩を打撲してしまう。
「……っ」
 起き上がりながら打撲した腕を力を抜いて優しく擦るが痛いものは痛い訳で、小さく口から漏れた声。
 そんな小さな声を拾った人物が居た。
「ん?」
「ディーノさん、どうかしましたか?」
 声のした方を見て首を傾げたディーノの声に綱吉がどうかしたのか問う。
 そんな綱吉に振り返り
「いや、今声がした気が……」
「オレ達以外に誰か来ているのかもな」
 山本がのんきにそんな事を述べ
「じゃぁ、じゃぁその人に道を聞けばかえ「ギャアアアアア」
 綱吉の言葉に被さる様に洞窟内を見に行った獄寺の悲鳴がし、意識は洞窟の方へと向き、綱吉を覗いた三名が警戒を強め、洞窟を窺う。
 しばらくすると洞窟から気絶した獄寺に肩を貸し出てきたのはビアンキ。
 そして彼女が声をかけるとさらに出てきた人物。
 人物が増えた事により賑やかになり、先程ディーノが聞いた声の主の事はすっかり忘れた面々。
 そんな彼らの声を秋玖はこけた場所から立ちあがり、後ずさりしながら聞いていた。
(なんか嫌な予感がヒシヒシとするから関わらずに早々に立ち去らなければ)
 と内心かなり焦っていた。
 戻るならケンケンで来た方向へ向かえばいい訳で、だがこけた拍子に少々回転したのか微妙に方向が変わっている気がして瞬時に走る事が出来ない。
 とりあえず声のする方とは反対に向かう事にした秋玖は声のする方を背に向け歩き出した。
 山を降りたら救助を要請するから! と誓いながら。
 黙々と進み、どうやら何とかなりそうだというところで後方で山火事発生。
(ひぃー!! まじですか。は、早く逃げねば今度はでかい亀が襲ってくるじゃん!!)
 本編の内容を思い出したらしく、歩いていた足は速度を速める。
 そして見つけた人の足で踏み固められ出来た道。
 下る方を向き、今度こそ駈け出した秋玖は一気に下って行った。
 少々息を切らせ山を下り終えた秋玖
秋玖兄さん」
 一言秋玖を呼ぶ人物がいた。
 え? と思い声のした方を見れば、秋玖は心臓が止まるような気持ちになった。
 声の主はバイクに跨った人物で。
 見知った声に格好。
 返事をしないと死亡フラグが上がると思い、秋玖は何とか息を整えて声を出す。
「きょーちゃん」
 そんな秋玖にバイクから降りて近づくとヘルメットを渡し
「迎えに来たよ。帰ろう」
 と有無を言わさぬ雰囲気で告げる。
 そんな彼に逆らえるはずもなく、頷くものの、ハッとして
「少し待て」
 と告げて近くの管理小屋へと歩み始める。
「どうしたのさ」
 待てと言う秋玖に首を傾げ後を追いながら問えば
「遭難者が居たみたいだから連絡しておこうと思ってな」
「放っておきなよ」
 遭難した奴なんて遭難した己自身が悪いんだから、秋玖兄さんが気にかける事じゃないよ。と恭弥は告げる。
 だが、秋玖は首を振り
「私自身彼らに声をかけなかったから、せめて救助要請だけでもしなければ」
 己が身を優先してしまったから、せめてと言い、引かない秋玖にため息を吐き。
「分かった。最高で五分だけね」
 それ以上は秋玖兄さんがなんと言おうとも連れて帰るからと恭弥は告げて秋玖の手を取る。
 そんな彼に小さく苦笑いを漏らすと秋玖は頷き
「用件だけ告げて帰ろう」
 と返すのであった。

復活11

 おはようございます。
 桜花さん改め秋玖君です。
 いやはや、前回の逃避から連れ戻されてから暫く家に監禁されました。
 そんな恭弥さん私は知りません。
 原作偽造も甚だしい。あり得ない。とは思いながらも、実際問題監禁されてしまったので、言っても仕方がないのですが。
 一応の気づかいからか、家から出なければ拘束はしないって言われたので、頷き返しましたが、考えてみると日用品の買い出しどうするのだろう?
 答えは恭弥さんのパシリにされた風紀委員会のメンバーが私の書いたメモを元に買い出し部隊になりました。
 ちなみにメモは私から恭弥さん、恭弥さんからたいてい恭弥さんの近くに控えている彼……確か草壁さん? に渡され、ウチまで運ばれてきました。
 もちろん、私は中に引っ込んで居ますので彼は私の存在を知りません。
 まぁ、そんなこんなで監禁生活だったのですが、恭弥さんが風邪を引かれまして、入院しました。
 それがきっかけで私は家から出られない監禁生活から解放はされたのですが、看病という事で現在恭弥さんが入院している病室にて果物を剥いています。
 ……何でこうなった?
 ハッ! そういえば恭弥さんが風邪で入院した時って綱吉君も入院していなかったっけ?
 なんて仲良しなの! ってニマニマした記憶があるからあっているはず。
 マズイ。せっかく恭弥さんと兄弟であるという事を隠しているのにここにいたらばれるか疑われる!
 どうにかしなきゃ!

「きょーちゃん」
 うさぎを思わす剥き方をされたりんごが乗せられた皿をテーブルに置ながら秋玖は恭弥を呼ぶ。
 本に向けられていた視線が秋玖へと移動して先を促す。
「少し歩いてくる」
 暫くしたら戻ってくるから大人しくしときなさい。と目で告げ、秋玖は一度恭弥の頭を撫でて返事も聞かずに病室を出ていくのであった。
 そんな秋玖の背を見送りつつ、強く唇を噛み締める。出来る事ならば行かないで傍に居てと口にしたかった。
 だが、遠出から帰宅してから入院する迄の間、自己満足の為だけに秋玖の自由を奪った自分を兄である彼は責める事も怒る事もせずに、ただただ我が儘に付き合ってくれた。
 だから、ずっと傍に居ては欲しいが、少しの間傍を離れるぐらいは我慢しなければと思う。
 我が儘な振る舞いをしても変わらず接してくれる兄は優しかった。
 弟というポジションに甘えている自分にイライラするが、弟でなければ秋玖は自分から離れていってしまう気がしてならない為、そのポジションから抜け出すに抜け出せずにいる。
 何も言わず、書き置き等も残さず兄が自分の前から消えてしまったらと考えるだけで怖い。
 生まれた時から共に居る存在。依存している存在。
 両親が近くに居なくとも兄である秋玖さえ居ればそれで自分は満足であり、安心している。
 素直に言えば少しでも離れるのは嫌な事である。
 学校で兄弟だと伏せているのも本当は嫌な事だが、自分を気遣ってあえて兄弟ではないと振る舞ってくれているのだから、我慢しなければと思う。
 兄である秋玖の行動は全て自分を気遣っての事なのだから。
秋玖兄さん……」
 秋玖の向いていったうさぎ型のりんごを手に取り名を呟いてから口に含んだ。
 シャリっという音と共に口に広がった甘酸っぱいりんごの味。
 まだ少々時期が早かったのか甘さより酸っぱさが口の中で主張する。
 秋玖への想いも伝えるには今はまだ時期が早い。
 嫌われないよう、でも少しでも多く彼の時間を自分に使って欲しいから我が儘を言ってしまう。
 キリリと痛む胸を抑え、秋玖が出て行った扉に再度目を向ければ人の気配。
 秋玖でないその気配に恭弥は獲物を手に取るのであった。

復活10

 こんにちは、皆さん。
 桜花さん改め秋玖君です。
 旅に出よう計画は何とか、一応、成功? したんです。
 なんでそんな自信なさげな疑問形かと申しますと、旅と呼べるほどの事が出来なかったのです。
 いや、うん、一応並盛からは出れたんですよ。
 いったん家帰って着替えてから通帳とキャッシュカードと財布とを鞄に詰めて、銀行寄ってから駅で青春18切符買って乗れる電車に乗った訳ですよ。
 今思えば新幹線にしとけば良かった……。
 まぁ、とにかく、電車の揺れに揺られながらうとうとして、ふと目覚めたところで空腹感を感じたのでホームにあるうどん屋さんでうどんとおいなりさんを食し、電車を確認してから乗り、終点で乗り換え、また揺られ、どんどん下って行ったのですが、都心から離れて行くと電車の本数も限られてきまして……。
 また、中学生が遅い時間一人ってのも悪る目立ちしますからある程度行ったところで下車して宿泊先を探す事にし、それと共に駅の売店で時刻表を購入しました。
 うん、ここまではスムーズでした。
 が、宿泊先を決めた辺りから……。
 中学生が一人でってのと軽装だったので、勢いに任せて家出でもしたのではないかと大変疑われまして。
 いや、うん、遠からずその予想は当たっているんですが、そんな事言える訳がありません。
 なので翌日が土曜日で休みだから週末を使ってちょっと遠出をしているんです。って言ってなんとか宿泊先を確保したのですが、身元確認の為に住所やら名前やら電話番号を宿泊名簿に記載したところ、私の知らないところで電話連絡されたみたいで……。
 翌朝目を覚ましたらすぐ近くに恭弥さんが居ました。
 ………………。
 あぁ、死亡フラグですか。
 そう思ったものの、現実逃避したくて布団を被って二度寝を試みました。
 結果布団を剥がされ、ご機嫌斜めだと分かる雰囲気の恭弥さんに再度ご対面するはめに。
 寝起きと言う状況を利用して強がってみよう。と起きたばかりの頭で思い立った私は、現実逃避したい気持ちも混じってか怖いもの知らずにも恭弥さんに噛み付きました。

「なに」
 たった一言問う言葉を紡いだ秋玖
 普段よりも機嫌が悪い事が伺える問いかけ。
「……」
 何も答えない恭弥に対し答えないなら相手をする必要なし。とでも言うかの様に起き上がり顔を洗う為にタオルを取り共同の洗面台がある廊下へと向かおうとする。
 だが、サンダルを履こうとしたところで恭弥に手を取られ、歩みを阻止された。
 顔だけ振り返って
「なに」
 再度同じ言葉を紡ぐ。
「っ……!」
 グイッと秋玖の手を強く引き体制を崩させ、恭弥は己の腕に秋玖を抱く。
 そして逃がさないとでも言うかの様に強く抱きしめて小さく何か呟いた。
「……」
 そんな恭弥にため息を吐く秋玖
「約束を破られるのは好きでない。それは知ってるはずだ」
 恭弥により抱きしめられている為、くぐもった秋玖の声が室内に響く。
 その声に反応するように抱きしめる腕に力が入る。
「……守れないなら約束などするな」
 苦しいのか力を緩めるように促しながら秋玖は言葉を続ける。
「私は約束を破られる度にまたか。と思い、それが続けばそんな相手との約束など信じなくなり、仕舞いには相手自身を信じない」
 一番長く一緒の時間を過ごしている、血の繋がった弟を信じなくなるのは避けたい。と告げる。
 その言葉に緩められていた腕の力がまた強くなる。
 そしてまた何か呟いたらしく、秋玖は恭弥の背に片方の手を回し、ポンポンとあやすように撫でたのであった。
秋玖兄さん、帰ろう」
 どうやら秋玖は今回の事を許してくれたらしい。と判断したらしく、恭弥が今までとは異なり普段と同じ声量で話しかける。
 そんな恭弥に本日何度目かの小さくため息を吐くと
「顔を洗ってくる。身支度と会計を済ませて別のところで朝食にしよう」
 何でここまで来たかは知らないが、帰る前に朝食を済ませたいと秋玖は思うのであった。

復活9

 チャオチャオ。
 桜花さん改め秋玖君ですよ。
 現在野良猫を必死に懐かせようと奮闘中な感じで獄寺君と仲良くなろうとしています。
 あと山本君が名前を呼び捨てしてきて、ちょっと困っています。
 名前呼びはお友達になった相手のみにしようと密やかに目論んでいたので。
 ほら、親しくならないと普通は苗字呼びじゃないですか。
 だからそうしたいんです。
 ってか、山本君とはあまりお近付きになりたくないのです。個人的に彼はパス。
 私はあくまでも1827や2718、2759が好きであって、山本君が相手の話は求めてないのですよ。
 あくまでも彼は綱吉君のお友達ポジションなんです。
 なので名前呼びは止めて頂きたい訳です。
 え? チキンなくせに我が儘だって?
 そんなの重々承知ですよ。でも、私、最近気付いたんですが……。
 私と言うか秋玖君と絡んだ相手に対して恭弥さんのチェックが厳しい気がするんですよ。
 たまたま目撃したのですが、噛み殺された後の現場で伸されていたのが、以前私が恭弥さんところに行こうと急いでいた時に絡んできた相手だったんです。
 事後とはいえ、恐ろしかったです。
 遭遇した風紀委員会の方々もいつもより酷いって仰っていて、ひぃー!! って気持ちでした。
 ですが、ここで腐な妄想が浮かびました。
 恭弥さんから綱吉君や獄寺君に絡みに行くって妄想が。いや、うん、理由を変換したんです。
 2718と2759カプで、18と59が27の愛を求めて争うって感じに。
 あぁ、美味しい。
 ですが、私は日中綱吉君や獄寺君と共に行動しています。
 恭弥さんが噛み殺しに来られたら被害を受ける事必須! 死亡フラグアップしてはいかん!
 って事で恭弥さんにお願いしました。
「校内では、私の視野内で狩りはしないでほしい」
 って感じに。
 取り締まるってか、噛み殺しを趣味としている恭弥さんですから止めろとは口が裂けても言えません。言ったら私、確実に死亡フラグだから。
 なので視野内では止めてね。って言いました。
 先に述べた通り、綱吉君や獄寺君と一緒に行動していますし、放課後は恭弥さん応接室に居てくださるので、そう言っておけば死亡フラグアップはまぬがれるかと思った訳です。
 お願いしたかいあって遭遇してません。
 あー、嬉しい。さて、図書室に本を返却して新たに借りたから応接室に向かう。
 朝食時に今日は図書室に寄ってから行くって伝えましたら、しばし考えた様子を見せてから頷かれました。
 そしてお菓子用意して待っているから早く来てよね。って! ツンデレのデレが強過ぎです、恭弥さん。
 でも、お菓子はケーキを用意して下さるとの事で、私急いで向かう事にしたんです! 甘いもの食べたかったから。
 えぇ、恭弥さんが怖い訳じゃ無いですよ? ……嘘です。頷かれた時、一瞬死亡フラグ立てた!? と本気でビビりました。
 無駄口叩いてないで急ごう!

 ………………。
 ド、同人ノ神様、ワ、ワタシうっかりシテマシタ。
 ひぃー。何でこんな場面に遭遇するの!?
 へ、平常心! げ、現実逃避!
 被害が来ない場所で借りた本読んで…………。
 ちょ、獄寺君タンマ! それを校内でぶっぱなさいで!! 爆風でこっちに瓦礫が飛んでくるから!! ひぃー、無理!
 ん、あれ? あー! 恭弥さんに伸されて……。山本君も……。
 うぁわ、痛そうです。
 って、綱吉君! スリッパで恭弥さん殴らないで! 後が怖いんだから!
 ハッ! そうだ、急いで物陰に隠れないとリボーン君が爆弾爆発させるんだった。
 確か恭弥さん無傷だったから大丈夫だよね? 爆破後にリボーン君達が去ったら中に入ろう。恭弥さん宥められる自信無いけど、やらないとさらに怖いし。
 うー。神様、私に勇気と幸運を下さい。
 ……もう大丈夫かな?
 そーっとそーっと。
 う。今リボーン君と目があった?
 き、気のせい。気のせいよ。
 ほら、気のせいだからリボーン君もいなくなった。恭弥さんに話し掛けても大丈夫よね?
「きょーちゃん」
 が、頑張れ私。
 精一杯の勇気を絞って声を掛けました。
「兄さん……」
 黒煙が晴れてくる前に衝撃がお腹にきました。
 いや、うん。心当たりはあります。だって、さっき声をかけたの自分だし、現在応接室には私の他には彼しか居ない訳で。
 えぇ、黒煙が晴れるとやっぱり恭弥さんに抱きつかれていました。
 さて、これからどうしようかな。
「きょーちゃん、何があった?」
 小さい頃からの習慣で頭を撫でてしまいましたが、ドア開いているから閉めないとだよね。
 で、ソファーの確認とケーキ。これ大事。
「噛み殺してないから約束は破ってないよ」
 見上げてくる顔は必死な感じです。
 いや、噛み殺そうとしたじゃん。とは思いつつ、怖くてそんな事は絶対に言えません。
 だから頷くだけに留めました。
 で、ドアを閉めようと身動きをしました。そしたら、好戦的な目をして
「ねぇ、兄さん」
 と呼ばれ、ヒヤヒヤしながら言葉を待てば
「僕の一撃を受け止めた赤ん坊が居たんだ」
 と。そんな嬉しそうに告げられても……。私は巻き込まれたくないので、巻き込まないようにお願いします。
「そうか」
 無難な返事をしました。だって何て言えばいいか分からないんです。
「うん。楽しくなるね」
 恭弥さんがね。私はパスですよ。死亡フラグだから。
 さてさて、テーブルにソファーも無事だし、ドア閉めてケーキを頂こう。
 現実逃避します。
 甘いケーキが私を呼んでいるんです。
「ケーキを食べよう」
 恭弥さん、ケーキを用意して下さい。私はドアを閉めますので。
 放してくれると思って告げたら、さらっと
「ケーキはないよ」
 なんて告げられても……。私、お昼のデザート我慢したのはケーキを楽しみにしていたからなんですが。
 ……ダメだよ。力が出ない。
 もう帰ろう。
 やる気が一気に低下したってか、勇気も消え去った。
 私は恭弥さんが何か言っていた気がしますが、聞き取る元気もなく、帰路に着きました。
 しばらく旅に出ようかしら。
 あー、それも良いな。腐の事が出来ないからお金の使い道無くて貯金はたんまりあるし。
 うん、しばらく旅に出よう。
 恭弥さんに見つからないように何気ない装いで行かねばだけど。きっとどうにかなるよ。

復活8

 なんだか最近綱吉君がよそよそしい気がする桜花さん改め秋玖君ですよ。
 私、何かしたかな?
 思い当たる節はいくつかあります。
 うん、私脳内腐っているので、日々1827とか2718とか妄想して遊んでいます。
 恭弥さんとは同居していて、クラスの座席真後ろには綱吉君居るのにね!
 あとはこの間の質問にきちんと答えなかったのが問題だったかしら……。
 でもさ、速攻で教室出て行く理由聞かれたからさ。
 せっかく苗字まで変えて恭弥さんのお兄ちゃんだって事隠しているのに、ばれたら意味ないし、下手したら綱吉君避けるどころか近寄って来なくなりそうだし。
 1827とか2718の妄想もおちおち出来なくなるし。
 でもよそよそしい現状を考えてみるとばれても一緒かな?
 うーん、早く獄寺君転校して来ないかしら。
 お友達になって欲しいんだけど、なってくれるかな?
 あの子も綺麗所だから目の保養になってくれるはず!
 2759とかも美味しいよね。王道は5927なんだろうけど、私は2759だな。うん。
 早く会いたいわ~。
 私の記憶だと近日中に転校生として獄寺君が来るはずなんだけどな。
 まだかな?

 そわそわとして獄寺の転入を待ち望んでいた秋玖
 だが、運悪く彼が偏頭痛を起こして学校を休んだ日に獄寺は転校してきた。
 そして原作通りに綱吉に突っ掛かり、綱吉を認め、十代目と慕う事になる。
 翌日自席に獄寺が座っているのを見て教室の出入口にて呆然と立ち尽くし、鞄を取り落とした秋玖
(な、な……!? 獄寺君が何故私の席に? ってか、昨日席替えでもした訳?!)
「よ! 秋玖。そこ立ちっぱだと邪魔なのな。で、体調は大丈夫なのか?」
 ボケっとしていた秋玖の肩を叩き、声をかけてきた。
 振り返ると山本が立っており、秋玖の頭に新たに疑問が湧く。
 山本と話した事ってなかったよね? と。それなのに名前呼びをされ、頭はクエスチョンマークが飛びかう。
「……瑳神だ。立っていたのは悪い。席替えでもしたのか?」
 とりあえず落とした鞄を拾うと、何故自席に獄寺が座っているのかの疑問を問う事にした秋玖
「ん? してねぇけど。……あぁ、あいつ昨日うちのクラスにきた転校生な」
 そう説明をしてくれた。
「そうか」
 それだけ返すと自席へと向かう。
「おはよう、綱吉に転校生君」
 そう一言告げ、こちらに意識を持ってこさせてから
「そこ、私の席。……転校生君、私は瑳神 秋玖。綱吉の友人をしている。君の名を教えて欲しい。そして出来れば友人になりたい」
 内心ドキドキしながら秋玖は獄寺に自己紹介をして友人になりたいと告げた。
 その言葉に驚いたのは、言われた獄寺以外の周りの人間で。
「えっ!?」
「なっ!? 秋玖!!」
 今まで綱吉以外に対して自ら自己紹介をした事も友人になりたいとも言った事がない秋玖が、席に勝手に座っていた相手に対して告げている。
 しかも人相が良いとは言い難い相手に対して告げているのだから。
「十代目の友人だとぉ? 十代目! 本当なんですか!?」
 威嚇した後、綱吉に詰め寄る獄寺。
「う、うん。秋玖君は俺には勿体ないぐらいの友人だよ」
 少々押され気味な綱吉に苦笑いして
「綱吉は大袈裟だね」
 そう漏らす。
 そんな秋玖に頬を染めて
「大袈裟じゃないよ……」
 と返す。
 余裕のある秋玖に対して、初々しい反応を見せる綱吉。
 完全に二人の世界である。
「十代目に馴々しくするな!」
 が、二人の間に獄寺は躊躇する事なく入り、秋玖に対して威嚇する。
 そんな獄寺ににっこりと笑みを見せる秋玖
「転校生君、名前は?」
 獄寺の言葉など聞いていない様子で再度名を問う。
 しかも逆らってはいけないような有無を言わせない笑みに獄寺は自然と名乗っていた。
「獄寺 隼人……」
 そんな獄寺に先程とは少々異なる笑みを見せ、自然な動さで彼の頭を撫でる秋玖
「なっ!?」
 咄嗟にその手を払い除けた獄寺ではあったが、頬は赤く染まっている。
 秋玖が近づけばそれに伴うように下がる獄寺に秋玖はある一定の所まで近づくとピタリと止まった。
「退いてくれてありがとう」
 それだけ告げると気にした様子もなく、自席に座り、鞄から教科書等を取り出すと机の中へと閉まい、ふと気が付いた様に振り返り、綱吉に一言
「先生来たら起こして」
 とだけ告げて返事を聞かずに机へと突っ伏すのであった。

復活7

 ダメツナな俺にはもったいないぐらい凄い友達が出来た。
 友達と言うのもおこがましいぐらい彼は格好良くて、同じ男なのに彼がふと見せる表情にドキッてするんだ。
 それから、不思議で仕方がないと思う程、彼はクラスで俺以外と仲良くする気配がない。
 クラスの皆は彼と仲良くなりたいみたいなのに。
 不思議だったから二人になった時に聞いてみたんだ。
瑳神君は俺以外の友達を作らないの?」
 って。
 したら、即座に訂正を入れられた。
秋玖
 ……うぅ。名前で呼ぶ約束をしたとはいえ、やっぱり恥ずかしくてすんなりとは呼べない。
「……秋玖、君」
 そう告げれば、ちょっと不満そうな表情をされた。
 うー、畏れ多くて呼び捨てなんて出来ないよ!
 だから、俺も譲れないといった表情を一生懸命作ってみた。
 絶対迫力無い。やさ顔な上に締まりがない顔だから仕方がないとはいえ、彼とは雲泥の差で悲しくなる。
 それでも意図は通じたみたいで、馴れたら呼び捨てするようにと妥協案を出された。
 ……馴れる日なんて来るのかな?
 来ないだろうな……なんて考えていたら、質問の返事が返ってきた。
「今は綱吉だけで。今度の転校生、彼とはなる予定」
 転校生? そんな予定が有るのかな?
 ごくたまに彼は不思議な事を言う。
 それがまた彼を魅力だたせるのかもしれないけど、俺は話に付いていけなくて、それがまた寂しい。
 俺がダメツナだから仕方がないとは思うけど、やっぱり寂しい。
 放課後以外の学校生活ではいつも一緒だけど、入学してから一度も一緒に登下校をしていない事になんだが違和感を感じて、また寂しい気持ちを気付かれたくなくて聞いてみた。
「そういえば秋玖君は、掃除当番じゃない時はいつもホームルームが終わったら凄い速さで帰っちゃうけど……」
 そこまで言ったところで次の言葉は出てこなかった。
 彼が困った様に、だけど愛しそうに苦笑して首を振ったから。
 ヅキンっと胸に針が刺さる。
 知らない。
 その笑みが意味する事も、笑みを引き出したであろう相手も。
 見たくない。
 俺が振った話題だけど、あんな笑みは見た事ない。
 だから、また話題を変えて逃げる事にした。
 俺に対しての笑みじゃないなら見たくない。